藻類の太陽光エネルギーを吸収する仕組みを解明-高効率な光エネルギー伝達デバイスへの応用に期待-
【概要説明】
理化学研究所(理研)放射光科学研究センター利用技術開拓研究部門生体機構研究グループの川上恵典研究員、米倉功治グループディレクター(東北大学多元物質科学研究所教授)、東北大学多元物質科学研究所生物分子機能計測研究分野の浜口祐准教授、大阪公立大学人工光合成研究センターの神谷信夫特別招へい教授(大阪市立大学名誉教授)、大阪公立大学大学院理学研究科生物学専攻の宮田真人教授、熊本大学産業ナノマテリアル研究所の小澄大輔准教授、豊橋技術科学大学応用化学?生命工学系の広瀬侑准教授の共同研究グループは、太陽光エネルギーを高効率に吸収する藻類の光捕集タンパク質複合体「フィコビリソーム[1]」の中心およびアンテナ部位の立体構造を明らかにすることに成功しました。
本研究成果は、光合成の初期過程である光エネルギーを吸収する仕組みを解明したものです。藻類の光捕集の仕組みを理解し、この知見を人工光合成研究[2]に取り入れることで、高効率光エネルギー伝達デバイスの開発に貢献することができると期待されます。
今回、共同研究グループは、好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus vulcanus(T. vulcanus)[3]から単離したフィコビリソームの中心部位であるコアとアンテナ部位である棒状のフィコシアニン[4]ロッドのそれぞれについて、クライオ電子顕微鏡[5]を用いた単粒子解析[6]を行いました。複雑で巨大な複合体の観察には、クライオ電子顕微鏡測定に適した試料調整と国産クライオ電子顕微鏡の運用技術開発が必要でした。本研究で解析されたフィコビリソームは発色団としてフィコシアノビリン[7]のみを持ち、タンパク質環境の違いによって各発色団の吸収波長を変化させ、単一の発色団を用いた一方向性の超高速光エネルギー伝達システムを構築しています。フィコビリソームの立体構造を解析することで各フィコシアノビリンの周辺環境の詳細が明らかとなり、そのエネルギー伝達システムが明らかにされました。
本研究は、科学雑誌『Nature Communications』オンライン版(6月17日付:日本時間6月17日)に掲載されました。
【用語解説】
[1] フィコビリソーム
シアノバクテリアや紅藻、灰色藻といった多くの藻類が持ち、太陽の光を捕集する機能を持つタンパク質複合体。
[2] 人工光合成研究
植物や藻類が行う天然光合成とは異なり、光合成を人工的に行う技術を開発する研究。化石燃料や原子力の代替エネルギーの開発として注目されている。
[3] Thermosynechococcus vulcanus(T. vulcanus)
生育至適温度が50~60?C程度の中度好熱性のシアノバクテリアの一種であり、温泉源に多く生息している。得られるタンパク質は耐熱性であるため、植物や藻類が行う天然光合成を調べるための生化学?分光学?構造解析に適している。
?[4] フィコシアニン
フィコビリソームを構成するタンパク質の一つで、光を吸収?伝達する色素フィコシアノビリンを持つ。三つのフィコシアニンでリング状の三量体を形成し、それが積み重なることでフィコビリソームのロッドを構築している。
?[5] クライオ電子顕微鏡
タンパク質などの生体分子を、水溶液中の生理的な環境に近い状態で、電子顕微鏡で観察するために開発された手法。まず、試料を含む溶液を液体エタン(約-170℃)中に落下させ急速凍結し、アモルファス(非晶質、ガラス状)な薄い氷に包埋する。これを液体窒素(-196℃)冷却下で、電子顕微鏡観察する。電子顕微鏡内の真空中で試料は氷中に保持でき、また、冷却することで電子線の照射による損傷を減らせる。リチャード?ヘンダーソンはグルコースを用いることで電子顕微鏡測定での試料の乾燥を防ぎ、そしてジャック?ドゥボシェは氷包埋の手順を作り、2017年のノーベル化学賞の受賞者に選ばれた。
[6] 単粒子解析
電子顕微鏡で撮影した多数の生体分子の画像から、その立体構造を決定する構造解析手法。目的試料の結晶を作製しなくても、立体構造情報を得ることができる。2017年のノーベル化学賞受賞者の1人であるヨアヒム?フランクらにより、単粒子解析の基礎が作られた。
?[7] フィコシアノビリン
青色の発色団(色素)で、シアノバクテリアや紅藻、灰色藻といった多くの藻類が持つ。太陽光エネルギーを吸収?伝達できる。
【論文情報】
論文名:Core and rod structures of a thermophilic cyanobacterial light-harvesting phycobilisome
著者:? Keisuke Kawakami, Tasuku Hamaguchi, Yuu Hirose, Daisuke Kosumi, Makoto Miyata, Nobuo Kamiya, Koji Yonekura
掲載誌:Nature Communications
doi:10.1038/s41467-022-30962-9
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【詳細】 プレスリリース(PDF733KB)
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