令和2年度入学生の皆さんへ(令和2年度熊本大学?熊本大学大学院入学式 式辞)
入学生の皆さん、熊本大学へのご入学、おめでとうございます。本来であれば、ご来賓各位のご臨席の下に、学部生や大学院生など総勢2,517名の溌剌とした皆さんをお迎えし、令和2年度熊本大学入学式を挙行するはずでしたが、澳门赌场感染拡大防止のため入学式式典を中止せざるを得ませんでした。熊本大学の全教職員にとって断腸の思いであります。?
皆さんがこれから学ぼうとする熊本大学は、長い歴史と素晴らしい伝統を持った大学です。文学部、法学部及び理学部は旧制第五高等学校、教育学部は師範学校、工学部、薬学部はそれぞれ専門学校、医学部は医科大学を母体として、昭和24年(1949年)に新しい制度の下に総合大学として発足し、これまでに数多くの有為の人材を世界に送り出してきました。母体の一つである旧制第五高等学校の本館は赤れんが造りの建物で、現在は五高記念館として本学のシンボルになっており、国の重要文化財にも指定されています。四年前の熊本地震で大きな被害を受け、現在修復工事中ですが、来年度には工事が完了する予定で、元の重厚感漂う美しい姿を見ることができるようになります。その第五高等学校の創成期には、講道館柔道の創始者でもある嘉納治五郎が校長を務め、文学者でもあるラフカデイオ?ハーンや夏目漱石なども英語の教師として教鞭をとりました。また、高名な物理学者で随筆家でもある寺田寅彦も漱石を師として勉学を重ねました。こうした優れた先人の残したものが五高記念館に保存されておりますので、修復が完了した折には是非ご覧になり、熊本大学の歴史の一端に触れていただきたいと思います。?
このように、新制度の下で総合大学となって71年という長い歴史を持つ熊本大学ですが、これまでも入学式が開催されなかった年があります。昭和44年(1969年)の入学式です。実は、この年に私は熊本大学に入学しました。学園紛争のため学内は荒れ、入学式が開催されなかっただけでなく、授業も半年ほどありませんでした。しかし、このような環境の中でも、これから始まる大学生活に希望を持ち、読書や課外活動に励んだことを思い出します。
授業につきましても、今回、本学では国が示している三つの条件(換気の悪い密閉空間、多くの人が密集、近距離での会話や発話)が重なることを回避する対策を講じた上で、授業を行うこととしました。皆さんも咳エチケットや手洗いなどの基本的な感染症対策をしっかりと行っていただき、発熱などの症状があれば登校を控え、報告していただきたいと思います。また、現在問題となっているのは、若者の場合感染しても症状の出ない無症候感染者が多く、知らずに感染を拡大させてしまうケースが多発していることです。そこでお願いしたいのは、皆さんがこの無症候感染者であるという発想の転換を図っていただきたいということです。仮に、感染者であれば、人に感染を広げないため、どういう行動をとるべきか、それを十分考えていただきたいと思います。例えば、雑踏や混み合った場での会食は避ける、2m離れていても会話する場合はできるだけマスクを装着する、学食などで昼食をとるときも、できるだけ離れて座り、会話を慎み、手短に済ませることを心がけるなどです。個々人のこのような努力がなければ、今回の澳门赌场の感染拡大は防げないと思います。?
さて、大学の教育とは一体どんなものなのか考えてみたいと思います。高校までの教育とどこが違うのでしょうか?現在の大学教育への批判の一つに、学生が家でほとんど勉強しないことやほとんど本を読まないことが度々挙げられています。大学では、多くの場合、読書と同じように自主性を重んじた勉学が求められます。自分が学びたいと思う科目を選択する必要があります。また、問題を設定し、それを解決する方策を学び、考えるという極めて能動的な学習が求められます。単に知識を受けるだけでなく、目的意識を持って能動的に「学問をする」ことが大切です。何事にも興味を持ち、あらゆる事に疑問を抱く、これこそ「学問をする」原動力となります。
大学の基本は人材育成であり、そのため研究に取り組み、それを基にした教育を展開しています。研究は新しいものの発見であり、新しい考え方の創造でもあります。従って、それを基にした教育には回答はありません。新しいものを見つける、大学はその見つけ方を教えるのであり、皆さんはその見つけ方を学ぶのです。それが大学教育の基本です。おそらくこれまで皆さんが受けて来られた教育は、すでに確立され、そして集積された知識の学習であったろうと思いますし、この点が大学での教育と大きく異なるところです。?
熊本大学は、その伝統を守り、多くの文化に理解を示し、国内外の様々な問題に関心を持ち、それらの問題を解決する能力と自分の考えを説明する能力を備えた人材を養成することを目指しています。そのための教育戦略として、「旧制五高以来の剛毅木訥(ごうきぼくとつ)の気風を受け継ぎ、“Global Thinking and Local Action”できる人材育成」を掲げています。熊大スピリットを伝えるコミュニケーションワード「創造する森 挑戦する炎」が意図するところは正にここにあります。
さあ、皆さん、一緒に学問をしましょう。そして「創造する森 挑戦する炎」を胸に新しい熊本大学、生き生きとした熊本を作っていこうではありませんか。
本日は、熊本大学へのご入学、誠におめでとうございます。
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令和2年4月4日
熊本大学長 原田 信志
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