皮膚細胞の老化と再生の秘密はダイバーシティな幹細胞の世界にあり!

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老化のメカニズムを幹細胞の研究で明らかにする

健児くん(以下◆):先生の研究について教えてください!

佐田先生:興味があって研究しているのは幹細胞です。iPS細胞のニュースなどでも話題になった幹細胞ですが、この細胞は特殊な機能を持っており、自分自身を作り出しながら、皮膚細胞や神経細胞など、別の機能をもつ成熟した細胞を継続して生み出しています。

新陳代謝を繰り返す私達の体から細胞がなくならないのは、幹細胞が新しい細胞を継続して作り出しているから。それはとても不思議なことなんです。幹細胞が普通の細胞と何が違うのか、どこにいて、どのように組織や臓器を維持しているのか、どのように制御されているのか。それを明らかにするのが私の研究です。

◆:老化も幹細胞が関わっているんですか?

佐田先生:幹細胞は老化によって能力が落ちてくるんです。すると皮膚が薄くなったり、怪我が治りにくくなったり、がんになりやすくなったりします。つまり、加齢性の異常の原因の一つが幹細胞の機能不全で、私たちはそれをステムセルエイジングと呼んでいます。能力が落ちるメカニズムも明らかにしたいと考えています。

◆:先生が幹細胞の研究を始められたきっかけは?

佐田先生:私は博士課程の時は生殖細胞の研究をしていました。生殖細胞の発生の研究としてRNA結合タンパク質のNanos2という遺伝子の解析をしていたんですが、この細胞をノックアウトしたマウスを作製したら、幹細胞に影響がでたんです。この遺伝子は精巣の幹細胞に比較的特異的に発現していて、それをノックアウトすると幹細胞の機能がダメになり、この遺伝子が幹細胞の維持にとても重要であることを発見しました。面白いと思って幹細胞に注目するようになりました。その後は、モデルとして使いやすいことから、皮膚の幹細胞を研究しています。

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基礎研究を大事にする熊大で、新しい現象を見つけたい

◆:先生にとって研究の面白さって、どんなところですか?

佐田先生:今まで予想していなかったことが明らかになる瞬間に立ち会えるところだと思います。いろんな実験をしていても九割五分ぐらいはうまくいかないんですけど、3年に1回ぐらいすごい結果が出たりするんです。いつものように顕微鏡を見た時「すごいことを見つけてしまったかも!」と思う瞬間があって、それが研究の醍醐味ですね。

今は学生さんと一緒に研究することが多くなったんですが、学生さんがそういう結果を持ってきた時はうれしいですね。「なんか先生すごいの見つけたかも!」とデータを持ってくるんです。そういうところに立ち会うと、学生も研究にのめりこんでいくし、私も本当にうれしいです。

私が今いるのは、国際先端医学研究機構(IRCMS)ですが、ここは、とてもユニークな組織です。幹細胞の研究ができて、マウスを飼育する環境もあるという点でもトップレベルの研究施設。さらに研究室の壁を取り払って研究者同士の交流を促す「オープンラボ」のシステムや機械の共有化など、若手研究者が直面するお金や人材の問題を解決しつつ、アクティブに研究する環境が整っています。また、基礎研究を楽しんでやる、という雰囲気も熊大の良さだと思います。業績や論文の数も大事ですが、純粋に、学問や研究を楽しもうという雰囲気が、基礎研究には大事だと思っています。

「新しい現象を見つけたい」というのは私の研究のモチベーション。軸としては皮膚の老化と再生という生命現象の中で、幹細胞の不思議な性質を明らかにしたいということはありますが、その上で、その時の出会いを大切に、異分野の研究者のコラボレーションなど、その時一番面白いと思うことをやっていきたいですね。基礎研究の面白さは、ゴールがあってそこに向かって進んでいくのではなく、どこに行くのかわからないけれど、面白そうだから進んでみよう、この分野を開拓していこう、とすることにあります。そんなスタンスで、新しいなにかを見つけられたらと思います。

研究者と家族のあり方を考える

◆:令和元年度「熊本大学女性研究者賞」を受賞されていますね。

佐田先生:熊本大学では、研究費などで女性を応援しようとし始めています。

日本において女性研究者をとりまく現状はいろんなところに問題があり、研究者としてやっていくにはハードルが高い点があるのも確かです。本当は能力があるのに、伝統的な考え方や、人々の頭に染み付いた概念などが邪魔をしているという点もあります。制度や体制など、もっと変わってほしいところもあります。

私は、研究を続けるにあたって、プログラマーだった夫と相談し、会社勤務からフリーランスに変わってもらうようにしました。

研究者がどのように家族を支え、仕事をしていくのかを考えるにあたっては、研究者と家族のあり方をもっと議論する必要があると感じています。どんな家族の形も「特殊」ではない、ダイバーシティに富む社会になっていくといいと思います。



研究活動に必要な能力をさまざまなところで活かして

◆:学生の皆さんに、メッセージをお願いします!

佐田先生:私の研究室では、ダイバーシティを大事にしています。研究室には、バックグラウンドや興味、将来のキャリアプランもバラバラで、いろんなモチベーションを持った人が集まっています。個性も強みもさまざまな人が一つになるからこそ、新しいものが生み出せると思うんです。自由に考えたりディスカッションする中で、自分がここで何をしたいのか、も考えてもらいたいですね。

研究をするときには、どのように進めるか考え、そのために1週間後、3カ月後、1年後に何をするのか、計画をたてて、人とコミュニケーションをとり、必要なものをそろえていく、という能力が必要です。この能力は、研究以外でも必要です。これからの時代、世界はもっと個人が活躍する時代になると思っています。そのとき、研究する能力を備えた人材は、新しいものを生み出す能力やプロジェクトを進める能力が発揮できるんじゃないかなと思います。

(2020年6月8日掲載)

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総務課 広報戦略室

096-342-3119