水素結合集積化により 磁気スイッチング機能の活性化に成功! 役に立たない分子を役立つ分子へ
【ポイント】
- コバルトイオンと鉄イオンからなる磁気スイッチング分子に着目
- キラルなカルボン酸を用いた水素結合集積体が磁気スイッチング挙動を発現することを発見
- 外場応答性磁気スイッチング分子の新たな開発方法を提案
【概要説明】
熊本大学大学院自然科学教育部博士後期課程1年の福島 陸大学院生、同大学大学院先導機構の関根 良博准教授、同大学大学院先端科学研究部の速水 真也教授らの研究グループは、外場応答性を示さない金属錯体※1分子ユニットに対して、キラルなカルボン酸との共結晶化によって水素結合を新たに形成させることで、急峻で完全に磁気スイッチングON/OFF可能な分子集合体の開発に成功しました。分子ユニットは、コバルトイオン(Co2+)と鉄イオン(Fe3+)が有機分子で架橋された二核構造からなります。通常、異なる金属イオンからなる錯体分子において、分子の中で電子は移動することができません。本研究では、分子ユニットをキラルなカルボン酸によって集積化させることで開発した一次元鎖状集合体において、温度変化によってコバルトイオンと鉄イオンの間での分子内電子移動を示し、反磁性※2と常磁性※3を可逆に変換可能な磁気スイッチング挙動を示すことが分かりました。今回の研究成果によって、外部刺激応答性を示さない分子ユニットであっても、機能発現に適した集積化方法を適用することで磁気スイッチング挙動を示す分子開発が可能であることを明らかにしました。さらに、構成する有機配位子のわずかな違いにより、磁気スイッチング温度を制御可能であることが分かりました。本研究は、水素結合形成を介した分子内電子移動を創出するための新しい分子合成戦略を提示するものです。
本研究成果は令和6年7月22日にアメリカ化学会雑誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載され、雑誌の「Supplementary Cover Art」にも選出されました。なお、本研究は文部科学省科学研究費補助金、日本学術振興会 卓越研究員事業、熊本大学国際先端科学技術研究機構 若手研究者支援事業、物質?デバイス領域共同研究拠点 基盤共同研究、公益財団法人 住友財団などの支援を受けて行われました。
【展開】
本研究成果から、急激で完全な磁気スイッチング挙動を達成するための新しい合成戦略を見出しました。この発見は、分子間相互作用と外場応答性電子移動挙動の相関を明らかにするものであり、水素結合集合法の重要性を強調するものです。クリスタルエンジニアリングの観点から外部刺激応答性分子ユニットに着目すると、水素結合は結晶格子の集積構造様式に影響を与えるだけでなく、分子の電子およびスピン状態変化にも大きく影響を与えることが分かりました。さらにこのことは、生体系と同様に、固体状態での水素結合形成が、電子供与体/受容体部位の酸化還元電位に影響を与え、それによって電子やイオンの移動、あるいは金属錯体中のイオンチャネルを制御する可能性があります。さらに、本研究で提案した戦略は、水素結合と電子移動の相関を示し、機能性分子の開発を系統的に促進することが期待されます。
(論文情報)
論文名:Assembling Smallest Prussian Blue Analogs Using Chiral Hydrogen Bond–Donating Unit Toward Complete Phase Transition
著者:Riku Fukushima, Yoshihiro Sekine*, Zhongyue Zhang, Shinya Hayami*
(*: equal correspondence)
掲載誌:Journal of the American Chemical Society
doi:10.1021/jacs.4c05065
URL:https://doi.org/10.1021/jacs.4c05065
【詳細】 プレスリリース(PDF1292KB)
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