ガラスは温度の上下を繰り返すと若返る? ―金属原子の並び方と振動の変化―
(ポイント)
- 金属ガラスに液体窒素温度と室温の間を繰り返して上下させる「極低温若返り効果」を起こすことで原子配列が変化することが、放射光X線を用いた実験で詳しく明らかになりました。
- ガラス中の構造の不均質性も、元素によって大きく変化することがわかりました。
- X線非弾性散乱実験よりミクロな弾性的性質の不均質さも変化することが見出されました。
- この研究は、国内、国際を問わず、幅広い研究者の協力によって達成されたものです。
【概要説明】
島根大学材料エネルギー学部の細川伸也研究員、尾原幸治教授および先端マテリアル研究開発協創機構のイェンス?シュテルホルン講師は、熊本大学、東北大学、九州シンクロトロン光研究センター、高輝度光科学研究センター、茨城大学、理化学研究所、およびハンガリー、フランスの研究者と協力して、金属ガラス(注1)を対象として、液体窒素温度(およそ摂氏マイナス196度)と室温の間を繰り返し上下させることによる若返り効果(注2)によって、構成する原子の並び方やその運動が大きく変化することを、大型放射光施設SPring-8(注3)(BL04B2、BL35XU)の放射光X線(注4)を用いて明らかにしました。
放射光X線を用いると、通常より高いエネルギーのX線を用いた高エネルギーX線回折(注5)を行うことができるばかりでなく、そのエネルギーを細かく変化させることができ、それによってX線異常散乱(注6)法を用いて構成元素による散乱の強さをコントロールでき、それぞれの元素のまわりの原子の配列を知ることができます。研究に用いた金属ガラスは重い希土類元素のガドリニウム(Gd)と軽い遷移金属元素であるコバルト(Co)からできているのですが、この実験より軽いCo元素が温度の上下を繰り返すことにより、Gd原子の直近の位置からやや離れた場所に若返りによって移動することがわかりました。また、放射光X線を用いたX線非弾性散乱(注7)法によって、金属ガラスはミクロに見て速く振動する硬い部分と遅く振動する柔らかな部分があるのですが、その不均質さが若返りにより大きく増大することを見出しました。この研究は、放射光X線を有効に用いて、ガラスの原子配列の変化や運動の変化を詳しく観測できることを示しています。
この結果は、オランダで刊行される科学雑誌「Acta Materialia」に令和6年12月13日に掲載されました。
(論文情報)
論文タイトル:Structural and Dynamical Changes in a Gd-Co Metallic Glass by Cryogenic Rejuvenation (極低温若返りによるGd-Co金属ガラスの構造とダイナミックスの変化)
著者:Shinya Hosokawa, *1 Jens R. Stellhorn, *2 László Pusztai, *3,4 Yoshikatsu Yamazaki, *5 Jing Jiang, *5 Hidemi Kato, *6 Tetsu Ichitsubo, *6 Eisuke Magome, *7 Nils Blanc, *8 Nathalie Boudet, *8 Koji Ohara, *1 Satoshi Tsutsui, *9,10 Hiroshi Uchiyama, *9 and Alfred Q. R. Baron*11,9
*1島根大学材料エネルギー学部、*2島根大学先端マテリアル研究開発協創機構、*3HUN-REN Wigner物理研究センター、*4熊本大学国際先端科学技術研究機構、*5東北大学金属材料研究所(研究当時)、*6東北大学金属材料研究所、*7九州シンクロトロン光研究センター、*8フランス国立科学研究センター、*9高輝度光科学研究センター、*10茨城大学大学院理工学研究科、*11理化学研究所
掲載誌:Acta Materialia
DOI:10.1016/j.actamat.2024.120616
詳細:プレスリリース
????
お問い合わせ熊本大学 総務部総務課広報戦略室
電話:096-342-3271
E-mail:sos-koho※jimu.kumamoto-u.ac.jp
(※を@に置き換えてください)