ヒトES/iPS細胞の未分化能維持と分化 におけるメチオニン代謝の役割を解明 ~ヒトES/iPS細胞の高効率かつ安全な分化細胞の作成へ期待~

熊本大学の白木伸明助教、粂 昭苑教授らは、 ヒトES細胞 注1) および iPS細胞 注2) の未分化能維持と分化において、これまで明らかにされていなかったヒトES/iPS細胞におけるアミノ酸代謝の役割について着目し、 メチオニン 注3) という必須アミノ酸の一つが無い環境で長時間培養した場合、細胞が死滅することを発見しました。また、このことを応用し、未分化状態において培養中にメチオニンが無い環境を数時間与えた後に内胚葉?中胚葉?外胚葉へそれぞれ分化誘導すると、顕著な分化促進効果が現れることを確認しました。さらに、内胚葉への分化過程においてメチオニンを除去した培養液で培養することにより、残存する未分化細胞のみを死滅させることができ、その後の肝臓分化を効率的に行うことに成功しました。
本研究により、ヒトES/iPS細胞の未分化維持および分化においてメチオニン代謝が重要な役割を担っていることが明らかになりました。さらに、ヒトES/iPS細胞の分化誘導においてメチオニン除去培養液を未分化維持過程で利用することにより、3胚葉(内胚葉?中胚葉?外胚葉)への分化促進効果が得られました。また、分化過程で利用することにより分化細胞の中に混ざった未分化細胞の除去が可能となりました。
本研究は、2014年4月17日12:00(米国時間)【情報解禁(日本時間)2014年4月18日(金)午前1時】に米国科学雑誌『Cell Metabolism』オンライン版に発表されます。

今回の方法が3胚葉への分化促進に使えることは、今後すべての組織への分化に応用できることを意味します。今回開発した方法はメチオニンを除去した培養液を利用するという簡便な方法であり、これまで開発されてきた既存の分化誘導方法と併用することで、より効率的に目的の細胞を作製することが可能になると期待できます。
メチオニン除去培養液による処理による各胚葉への分化促進については、各種細胞を作成する期間の短縮および分化の効率化につながり、ヒトES/iPS細胞を利用した創薬研究および再生医療に寄与できます。また、残存未分化幹細胞は腫瘍化の原因にもなるため、この残存未分化幹細胞を除去することは、移植医療において腫瘍が発生するリスクの低減に大きく寄与できると期待できます。
ヒトES/iPS細胞におけるメチオニン代謝特性については、本研究により世界で初めて明らかになりました。今後はヒトES/iPS細胞におけるメチオニン代謝と遺伝子発現制御との関係性の解明が課題です。

詳細: プレスリリース本文 (PDF 1.4MB)

(注1~3の用語解説はプレスリリース本文中に記載)

【研究内容に関する問い合わせ先】
白木 伸明(シラキノブアキ)
熊本大学 発生医学研究所 多能性幹細胞分野 助教
粂 昭苑(クメ ショウエン)
熊本大学 発生医学研究所 多能性幹細胞分野 教授
〒860-0811 熊本市中央区本荘2-2-1 発生医学研究所2階
Tel:096-373-6806, Fax:096-373-6807
E-mail:shiraki※kumamoto-u.ac.jp(白木)
skume※kumamoto-u.ac.jp(粂)
(※を@に置き換えてください)