皮膚が老化すると「幹細胞の顔」が変わる!~加齢に伴う皮膚幹細胞の糖鎖変化の解析に成功~

【ポイント】

  • 糖鎖の特徴的な構造を解析する新しい糖鎖プロファイリング技術を用い、皮膚の老化に伴って幹細胞の糖鎖修飾パターンが変化することを発見しました。
  • 老化型の糖鎖パターンを持つ皮膚幹細胞では、細胞の増殖が顕著に低下しました。
  • 糖鎖を標的にした皮膚幹細胞の老化状態の検出や老化の制御へとつながることが期待されます。

【概要説明】

 国立大学法人筑波大学 生存ダイナミクス研究センターの佐田亜衣子助教(研究当時、現 国立大学法人熊本大学 国際先端医学研究機構特任准教授)、柳沢裕美教授、国立研究開発法人産業技術総合研究所 細胞分子工学研究部門の舘野浩章研究グループ長らの研究グループは、糖鎖プロファイリング技術を用いて、老化皮膚において、幹細胞表面の糖鎖構造(糖鎖修飾パターン)が変化することを見出しました。

 細胞表面に存在する糖鎖は、「細胞の顔」とも呼ばれるように、細胞の種類や状態によって構造が劇的に変化することが知られています。血液型や腫瘍マーカーをはじめ、糖鎖の違いは優れたバイオマーカーとしても幅広く利用されてきました。しかし、細胞の中でも、分化細胞を生み出す組織幹細胞注1は、成体組織の全細胞の1パーセント以下に過ぎず、微量のサンプルしか得られないため、糖鎖解析を行うことは困難でした。本研究は、「レクチンアレイ法」という新しい技術を使うことで、糖鎖構造を高感度かつ迅速に検出し、加齢に伴って起こる皮膚幹細胞の糖鎖変化を捉えることに成功しました。本成果は、幹細胞の糖鎖を標的とした新たな老化対策やバイオマーカーの創出へとつながることが期待されます。

 本研究の成果は、Aging Cell誌に2020年7月18日付でオンライン公開されました。

※本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(PRIME、研究期間:2018-2021年度、研究代表:佐田亜衣子)、科学技術人材育成のコンソーシアム構築事業「次世代研究者育成プログラム」Nanotech CUPAL N.R.Pコース(研究期間:2018-2019年度、研究代表:佐田亜衣子)、三菱財団自然科学研究助成(研究期間:2019年度、研究代表:佐田亜衣子)、中冨健康科学振興財団研究助成金(研究期間:2018年度、研究代表:佐田亜衣子)、住友財団基礎科学研究助成(研究期間:2019年度、研究代表:佐田亜衣子)、ホーユー科学財団助成事業(研究期間:2018年度、研究代表:佐田亜衣子)の支援を受けて実施しました。

【今後の展開】

 老化予防の観点から、老化状態を早い段階で予測できるようなバイオマーカーや、老化制御のための標的分子の同定が求められています。

 なぜ老化した皮膚幹細胞で糖鎖が変化するのか? その生物学的意義や分子機構には未だ不明な点が多く残されています。今後、糖鎖を介した幹細胞老化の原因を究明することで、糖鎖をターゲットとした老化制御へとつながっていくことが期待されます。

【用語解説】

注1 組織幹細胞:成体幹細胞とも呼ばれる。成体の臓器や組織において、自己複製能(自分自身を長期的に増やす能力)と分化能(分化?成熟した細胞を産生する能力)を兼ね備えた細胞。組織の再生や損傷修復を担う。このうち、皮膚の新陳代謝や毛の生えかわり、傷の修復を担う細胞が皮膚幹細胞。

【論文情報】
● 論文名:Glycome profiling by lectin microarray reveals dynamic glycan alterations during epidermal stem cell aging

???????? (糖鎖プロファイリング技術を用いた加齢に伴う皮膚幹細胞の糖鎖変化の解明)

● 著者名:Lalhaba Oinam, Gopakumar Changarathil, Erna Raja, Yen Xuan Ngo, Hiroaki Tateno, Aiko Sada, Hiromi Yanagisawa

● 掲載雑誌:Aging Cell

● DOI:10.1111/acel.13190

【詳細】 プレスリリース(PDF 311KB)

お問い合わせ??

熊本大学国際先端医学研究機構 特任准教授

担当:佐田 亜衣子(さだ あいこ)
電話:096-373-6890
e-mail: aisada※kumamoto-u.ac.jp
(※を@に置き換えてください)