二足歩行は血管に悪い?-マウスとヒトのバイパス血管「側副血行路」を三次元画像で詳細に比較-
熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科(熊本大学医学部附属病院 心臓血管センター)の有馬勇一郎特任助教、辻田賢一教授らは、熊本大学大学院先端科学研究部、熊本大学国際先端科学技術研究機構(IROAST)、熊本大学国際先端医学研究機構(IRCMS)、国立循環器病研究センターとの共同研究 ※1 により、マイクロX線CTを用いてマウスの下肢血管を三次元で可視化する評価法を開発し、下肢で血管が詰まった状態において機能する特徴的な側副血行路(新たにできる迂回路となる血管)を同定しました。
本研究成果は、文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて、医学雑誌「Journal of American Heart Association」オンライン版に米国(EDT)時間の2018年3月23日(金)に掲載されました。
(説明)
末梢閉塞性動脈疾患は、動脈硬化による血管狭窄が下肢部分に流れる血管に及ぶことで生じる疾患です。下肢の血流障害をきたすため、歩行時に痛みやしびれの出る歩行障害(間欠性跛行(かんけつせいはこう))や、重症化した場合は下肢切断などの原因にもなります。
これまでの臨床研究と動物実験の結果から、ヒトに比べてマウスの方が下肢の虚血状態による組織障害が少ないことが知られていましたが、どのような違いが原因なのかは明らかでありませんでした。
今回の共同研究では、閉塞血管の迂回路として機能する側副血行路の発達に注目し、下肢の血管が詰まった状態を再現したマウス(下肢虚血モデル)と末梢閉塞性動脈疾患患者さんの下肢血管の形状を比較しました。
マウス下肢虚血モデルでは、マイクロX線CTを用いて下肢血管を立体的に可視化する手法を確立し、下肢が虚血した状態では臀部を走行する下殿動脈と呼ばれる血管が拡張し、側副血行路としての機能を示すことを明らかにしました。同時に末梢閉塞性動脈疾患の患者さんでも、診断画像の詳細な解析により、下殿動脈が血管狭窄に反応して拡張していることを確認しました。
また今回の研究で、マウスの下殿動脈はもともと下腿(ふくらはぎ)領域まで血管が発達していることで、ヒトと比べて下肢虚血に対して強い構造になっていることが示されました。一方、ヒトの下殿動脈は臀部の下あたりまでしか発達していません。ヒトで下殿動脈の発達が阻害されている原因として、二足歩行に伴う骨格の変化(進化)により、下殿動脈の発達する領域が制限されていること、骨盤から下腿までの距離が遠くなってしまったことが考えられます。
今後はこの特徴を理解した上で、ヒトにおける側副血行路を強化する治療法の開発が期待されます。
※1 本研究は以下の機関の研究者による多施設共同研究です。
?熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科(熊本大学医学部附属病院 心臓血管センター)
?熊本大学大学院先端科学研究部(X-Earthセンター)/ 熊本大学国際先端科学技術研究機構(IROAST):大谷順教授、椋木俊文准教授
?熊本大学国際先端医学研究機構(IRCMS):西山功一特任准教授
?国立循環器病研究センター:中川修部長、小川久雄理事長
【論文名】
Evaluation of collateral source characteristics with three-dimensional analysis using micro X-ray computed tomography
【著者名?所属】
Yuichiro Arima, Seiji Hokimoto, Noriaki Tabata, Osamu Nakagawa, Asahi Oshima, Yosuke Matsumoto, Takahiro Sato, Toshifumi Mukunoki, Jun Otani, Masanobu Ishii, Michie Uchikawa, Eiichiro Yamamoto, Yasuhiro Izumiya, Koichi Kaikita, Hisao Ogawa, Koichi Nishiyama and Kenichi Tsujita
【掲載雑誌】
Journal of American Heart Association
【URL】
http://jaha.ahajournals.org/content/7/6/e007800
【doi】
10.1161/JAHA.117.007800
【詳細】
プレスリリース本文 (PDF248KB)
大学院生命科学研究部 循環器内科
担当:特任助教 有馬勇一郎(ありまゆういちろう)
電話:096-373-5175
e-mail:arimay※kumamoto-u.ac.jp
(※を@に置き換えてください)