脳に薬剤を届けるナノカプセル送達技術を開発 ー脳に効くバイオ医薬品開発への応用に期待ー

【ポイント】

  • 100ナノメートル~1,000ナノメートルのナノ粒子を修飾することで脳の血液脳関門の透過を促進する環状ペプチドを発見しました。
  • 環状ペプチドで修飾したナノ粒子内にタンパク質や遺伝子などを入れることにより、さまざまな医薬品の脳への送達が可能となり、新たな中枢薬の開発に貢献することが期待されます。

【概要説明】

 熊本大学大学院生命科学研究部の大槻純男教授らの研究グループは、フランス?コシャン研究所との共同研究により血液脳関門*1のモデル細胞とファージ*2を用いたスクリーニングによって、ナノ粒子を脳に送り届けることができる環状ペプチド*3を発見しました。

 脳には血液脳関門が存在し、薬が血液から脳へ移動することを妨げています。脳で効く薬(中枢薬)を開発するためには、その薬が血液脳関門を越え脳内に入る必要があり、そのことが中枢薬の開発を特に困難にしている原因です。今回発見した環状ペプチドを表面に持つナノ粒子の中に医薬品を入れることによって、脳に薬を届ける薬剤ナノカプセルの研究開発が可能になり、中枢薬の開発に大きく貢献することが期待されます。

 本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)創薬基盤推進研究事業「高分子医薬品の経口投与を可能とする小腸透過環状ペプチドキャリアの開発」(研究代表者 大槻純男、課題管理番号:19ak0101080h)、文部科学省科学研究費補助金、日本学術振興会特別研究員奨励費、持田記念医学薬学振興財団の支援を受けて、「Journal of Controlled Release」に日本時間3月2日に公開されました。

【用語解説】

*1:血液脳関門
血液から脳に物質の移動が制限されている仕組みを血液脳関門といいます。血液脳関門の実態は脳の血管を構成している内皮細胞です。脳の血管は隙間がないため薬が脳へ移動する障壁になっています。脳以外の組織の血管は隙間があるため薬が血液から組織に移動することができます。

*2:ファージ
細菌に感染するウイルスの総称です。本研究では、遺伝子改変によってランダムな環状ペプチドを表面に提示するM13ファージを用いて、環状ペプチドのスクリーニングを行っています。

*3:環状ペプチド
一部のアミノ酸同士が結合し環状になったペプチドです。本研究の環状ペプチドは7アミノ酸の両端にシステインが存在し、システイン同士がS-S結合することで環状になっています。環状ペプチドは活性や安定性の高さから医薬品等を含めた応用が注目されています。

【論文名】
Novel cyclic peptides facilitating transcellular blood-brain barrier transport of macromolecules in vitro and in vivo
【著者名?所属】
Shunsuke Yamaguchi, Shingo Ito, Takeshi Masuda, Pierre-Olivier Couraud, Sumio Ohtsuki
【掲載雑誌】
Journal of Controlled Release
【doi】
https://doi.org/10.1016/j.jconrel.2020.03.001
【URL】
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0168365920301401

【詳細】 プレスリリース本文 (PDF 443KB)

お問い合わせ??

熊本大学大学院生命科学研究部
教授 大槻 純男
電話:096-371-4323
e-mail:sohtsuki※kumamoto-u.ac.jp