口腔がんが放射線耐性を獲得する新たな仕組みを解明 -新たな治療法開発に期待-

【ポイント】

  • 放射線耐性を持つ口腔がん細胞から放出される細胞外小胞が、内包しているマイクロRNAという分子を介してアポトーシス(細胞死)を制御し、がん細胞に放射線抵抗性を獲得させることを明らかにしました。
  • 口腔がん患者の血液中に存在するマイクロRNA(miR-503-3p)を測定することで、患者の放射線治療の治療効果や予後を予測できる可能性があることを明らかにしました。
  • 細胞外小胞による新たな口腔がんの放射線耐性獲得メカニズムが明らかとなり、この仕組みを応用した新たな診断法?治療法の開発につながる可能性があります。
    【概要説明】

 熊本大学大学院生命科学研究部歯科口腔外科学講座の吉田遼司准教授、中山秀樹教授らの研究グループは、放射線治療が効きにくい口腔がん細胞が周囲に放出する細胞外小胞1とその中に含まれるマイクロRNA2という分子の解析を通じて、放射線が効きにくい口腔がん細胞が周囲の放射線が効きやすい口腔がん細胞に放射線耐性を獲得させる仕組みを明らかにしました。

 口腔がんの治療において放射線治療は手術に次ぐ有用な治療法ですが、放射線治療に抵抗性を示し再発?増悪することが問題となっています。そのメカニズムは多岐に渡り、現在も様々な視点から研究が進んでいます。近年、他の悪性腫瘍では、細胞外小胞という様々な細胞が分泌する小胞が悪性腫瘍の治療抵抗性獲得に関わることが報告されていますが、口腔がんの放射線耐性と細胞外小胞との関わりについてはほとんど研究されていませんでした。

 今回、本研究グループは、世界で初めて放射線耐性口腔がん細胞から分泌された細胞外小胞の単離に成功し、それを放射線が効きやすい口腔がん細胞に作用させました。その結果、放射線が効きにくい口腔がん細胞が、細胞外小胞の中に含まれるマイクロRNAの受け渡しを介してアポトーシス3制御を行い、放射線が効きやすいがん細胞に放射線耐性を獲得させることを明らかにしました。このメカニズムは、放射線に耐性を示す口腔がんの成立に寄与している可能性があります。また、口腔がん患者の血液中に存在するマイクロRNAmiR-503-3p)を測定することで、放射線治療の治療効果や予後4を予測できる可能性があることを明らかにしました。今後さらに研究を発展させることで、細胞外小胞を標的とした放射線耐性口腔がんへの新たな診断法?治療法の開発に貢献することが期待できます。

 本研究成果は、細胞外小胞研究において最も権威ある科学雑誌である「Journal of Extracellular Vesicles」に 令和31210日に掲載されました。本研究は、日本学術振興会「科学研究費助成事業 基盤研究(C18K09771」などの支援を受けて実施したものです。

?[用語解説]

1 細胞外小胞:細胞が分泌する直径405,000nm程度の脂質2分子膜に覆われた小胞体。

2 マイクロRNA2025塩基長の短いRNA鎖である機能性核酸。細胞内には多種類のマイクロRNAが存在し、主に、細胞外小胞に内包され、細胞外へ放出されることが知られている。

3 アポトーシス:個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理?調節された細胞死のこと。がん細胞では、遺伝子変異などの影響でこの現象が起きにくくなっている。

4予後:患者が罹った疾患の今後の病状についての医学的な見通し。病気の進行具合、治療の効果、生存できる確率など、すべてを含めた見通しを指す。


【論文情報】

論文名:Extracellular vesicles derived from radioresistant oral squamous cell carcinoma cells contribute to the acquisition of radioresistance via the miR-503-3p-BAK axis
著者:Keisuke Yamana, Junki Inoue, Ryoji Yoshida, Junki Sakata , Hikaru Nakashima , Hidetaka Arita , Sho Kawaguchi , Shunsuke Gohara , Yuka Nagao , Hisashi Takeshita , Manabu Maeshiro , Rin Liu , Yuichiro Matsuoka , Masatoshi Hirayama , Kenta Kawahara , Masashi Nagata , Akiyuki Hirosue , Ryo Toya , Ryuji Murakami , Yoshikazu Kuwahara , Manabu Fukumoto? and Hideki Nakayama
掲載誌:Journal of Extracellular Vesicles
doi:10.1002/jev2.12169
URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34894384/

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【詳細】 プレスリリース(PDF967KB)

お問い合わせ

熊本大学大学院生命科学研究部
歯科口腔外科学講座
担当:准教授 吉田遼司
電話:096-373-5288
E-mail:ryoshida※kumamoto-u.ac.jp

(※を@に置き換えてください)