遺伝性肺疾患におけるウイルス感染時の炎症応答調節の破綻機序が明らかに!

【ポイント】

  • 囊胞性線維症(CF)は、慢性気道炎症や過剰な粘液貯留、およびこれらの症状に伴う気道閉塞を呈し、若年で呼吸機能不全により死に至る難治性の遺伝性肺疾患である。
  • CF患者では、ウイルス感染を引き金に過剰な炎症応答が起き、病態が悪化することが知られていたが、その詳細な機序は不明であった。
  • CF患者由来の肺細胞を用いた詳細な分子解析の結果、抗炎症機能を持つSIGIRRという膜タンパク質の合成が異常(mRNAスプライシング異常)となり、結果として、CFでのウイルス感染に対する過剰な炎症応答の制御が破綻することが明らかとなった。
  • 異常なSIGIRR(D8-SIGIRR)の生成を抑制し、正常なSIGIRRの発現を維持することが、肺の炎症調節機構において重要であることを初めて明らかにした。

【概要説明】
 熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)の首藤剛准教授、崇城大学薬学部の首藤恵子講師らのチームは、遺伝性肺疾患(嚢胞性線維症)の過剰炎症の原因追求に取り組み、抗炎症機能を持つ膜タンパク質SIGIRR遺伝子の連結異常(mRNAスプライシング異常1)が、ウイルス感染時の炎症調節の破綻を引き起こし、過剰炎症の原因の一端を担うことを世界で初めて明らかにしました。

 一般に、囊胞性線維症(Cystic Fibrosis; CF、欧米で最も患者数の多い遺伝性肺疾患)は、慢性気道炎症や過剰な粘液貯留、およびこれらの症状に伴う気道閉塞を呈し、若年で呼吸機能不全により死に至る難治性の遺伝性肺疾患です。特に、CF患者においては、ウイルス感染などをきっかけとして過剰な炎症応答が起きることで、病態が悪化することが問題とされていましたが、その詳細な機序は明らかではありませんでした。

 本研究では、CF患者由来の肺細胞において、抗炎症機能を持つSIGIRRという膜タンパク質の合成が異常となり、D8-SIGIRRという異常なSIGIRRタンパク質となることを発見しました。また、異常SIGIRR(D8-SIGIRR)は、遺伝子合成時の連結異常(mRNAスプライシング異常)により生じることも明らかにしました。結果として、CFでのウイルス感染に対する過剰炎症応答が、D8-SIGIRRの生成による抗炎症機能の喪失に伴うことを明らかにし、CFの新たな治療薬の標的として、SIGIRR mRNAのスプライススイッチを初めて提起する報告となりました。

 なお、これまでにも、同チームは、CF特異的なmRNAスプライシング異常が、亜鉛輸送トランスポーターZip2のmRNAの連結調節に影響し、粘液産生異常を引き起こすことも明らかにしてきています(DOI:http://dx.doi.org/10.1016/j.ebiom.2017.12.025)。したがって、本研究は、この成果と合わせて考えることで、世界的に有名な遺伝性疾患CFの病態の根本的な理解につながる研究成果です。本研究成果は、分子科学の分野で定評のあるオープンアクセス誌「International Journal of Molecular Sciences」で7月13日 (米国時間) に公開されました。

【用語解説】
※1 mRNAスプライシング異常:DNA上の遺伝情報を転写したmRNAがタンパク質を合成する際に、通常は必要な部分だけがつなぎ合わせられ、それ以外の部分は除去(スプライシング)されるが、適切に除去されない異常。

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【論文情報】
論文名 A splice switch in SIGIRR causes a defect of IL-37-dependent anti-inflammatory activity in cystic fibrosis airway epithelial cells
著者名 Keiko Ueno-Shuto 1, Shunsuke Kamei 2,3,?, Megumi Hayashi 2, Ayami Fukuyama 2, Yuji Uchida 1, Naofumi Tokutomi 1, Mary Ann Suico 2, Hirofumi Kai 2 and Tsuyoshi Shuto 2,* (*責任著者)
所属:1崇城大学薬学部薬理学教室、2熊本大学大学院生命科学研究部 遺伝子機能応用学分野、3現在の所属:熊本大学発生医学研究所 分子血管制御分野
掲載誌 International Journal of Molecular Sciences
doi:https://doi.org/10.3390/ijms23147748
URL:https://www.mdpi.com/1422-0067/23/14/7748

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【詳細】 プレスリリース(PDF1.6MB)



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熊本大学大学院生命科学研究部附属グローバル天然物科学研究センター
大学院薬学教育部 遺伝子機能応用学研究室
准教授 首藤 剛
電話:096-371-4407
E-mail:tshuto※gpo.kumamoto-u.ac.jp

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