細胞周期からがん細胞の増殖を抑制する新たなメカニズムを解明!ー新規抗がん剤開発に道ー
熊本大学大学院生命科学研究部の魏 范研准教授(現 東北大学加齢医学研究所?教授)と富澤一仁教授のグループは、細胞周期に着目してがん細胞の増殖を抑制する新たなメカニズムを解明しました。本成果は、新しいタイプの抗がん剤の開発に繋がることが期待されます。
がん細胞は、分裂を繰り返すことによって増殖します。一つの細胞が二つに分裂する過程を細胞周期と呼び、細胞周期は、G1期、S期、G2期、M期の4つの期間に分けられます。G1期からS期へは、G1期の最後にサイクリンD1というタンパク質が増えることにより、移行します。S期に移行すると直ちに同タンパク質の量が減ることにより、S期→G2期→M期と移行します。
従来、サイクリンD1は、S期になると分解が進むことにより量が減ると考えられていました。しかし、分解のみが進んでも、合成が盛んなままであれば、厳密にサイクリンD1の量を減少させることは困難です。そこで、魏准教授らは、サイクリンD1の合成が抑制されるメカニズムに注目しました。
本研究により、G1期では、サイクリンD1合成の元となるメッセンジャーRNA (mRNA)の化学修飾(メチル化※)が抑制されることでサイクリンD1の合成が盛んになり、タンパク質量が上昇していることがわかりました。さらに、S期に入ると、サイクリンD1のmRNAがメチル化されることにより、サイクリンD1の合成が抑制されることを明らかにしました。G1期からS期への移行はサイクリンD1の増加によって起こります。がん細胞のサイクリンD1のmRNAをメチル化された状態にしておくと、サイクリンD1の合成が抑制され、細胞周期がG1期で停止しS期に移行しなくなり、その結果、細胞増殖が抑制されることが明らかになりました。
以上の結果より、がん細胞の増殖の抑制には、サイクリンD1 mRNAのメチル化による合成の抑制が重要であること、およびこのメカニズムを標的とした薬剤が抗がん剤として有効であることを明らかにしました。
本研究成果は、令和2年4月7日(日本時間23時)に「Cell Reports(セル リポーツ)」の電子版に掲載されます。
本研究は、文部科学省科学研究費助成事業の支援を受けて実施しました。
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[用語解説]
※RNAのメチル化
タンパク質が合成される際には、まず設計図であるDNAから必要な部分の情報がmRNAにコピーされ、このmRNAを元に材料が集められてタンパク質が合成されます。この際、mRNAはDNAにはない多くの化学修飾を受けますが、メチル化はその代表的な化学修飾の一つです。一般にmRNAがメチル化修飾されますとmRNAが分解され、タンパク質合成が抑制されます。
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[論文情報]
論文名:FTO demethylates Cyclin D1 mRNA and controls cell-cycle progression
著 者:Mayumi Hirayama, Fan-Yan Wei, Takeshi Chujo, Shinya Oki,
Maya Yakita, Daiki Kobayashi, Norie Araki, Nozomu Takahashi,
Ryoji Yoshida, Hideki Nakayama, Kazuhito Tomizawa
掲載誌:Cell Reports
doi:10.1016/j.celrep.2020.03.028
URL:https://doi.org/10.1016/j.celrep.2020.03.028
詳細: プレスリリース本文 (PDF 488KB)
お問い合わせ??熊本大学大学院生命科学研究部(医学系)
担当:富澤 一仁(分子生理学講座?教授)
電話: 096-373-5050
Fax? : 096-373-5052
e-mail: tomikt※kumamoto-u.ac.jp
(※を@に置き換えてください)