混ぜるだけでインスリンの経口投与を可能にする方法を開発~経口インスリンの開発に期待~
【ポイント】
- D体アミノ酸で合成した「小腸透過環状ペプチドDNP(D体DNPペプチド)」をインスリンに混合してマウスに経口投与すると、インスリンが小腸から吸収されるようになり、血糖値が低下しました。
- 本混合液に亜鉛を添加してインスリンを6量体化させると、さらにインスリンの吸収が促進され、糖尿病モデルマウスにおいても血糖値が低下しました。
- 臨床で用いられているインスリン注射剤にD体DNPペプチドを添加したところ、同様の血糖降下作用が観察されたため、D体DNPペプチドをインスリン注射剤に添加するだけで経口インスリンを創薬できることを見出しました。
【概要】
熊本大学大学院生命科学研究部の伊藤慎悟准教授、大槻純男教授らの研究グループは、独自に見出した「小腸透過環状ペプチドDNP (DNPペプチド)」をインスリンに添加剤として用いることによって、インスリンの小腸吸収を促進させ、経口投与によりマウスの血糖値を低下させることに成功しました。
経口インスリンは糖尿病患者から強く望まれていますが、未だに開発できていません。その理由は、インスリンが小腸から吸収されず、消化管で容易に分解されてしまうためです。今回、消化酵素によって分解されにくいアミノ酸(D体アミノ酸)で合成した小腸透過環状ペプチドDNP (D体DNPペプチド) と、亜鉛によって作成したインスリン6量体を混ぜて経口投与すると、インスリンの小腸吸収が促進され、野生型および糖尿病モデルマウスの血糖値を低下させることを明らかにしました。また、臨床で用いられているインスリン注射剤にD体DNPペプチドを添加するだけで、インスリンの経口投与が可能であることを見出しました。本研究成果によって、DNPペプチドを用いた経口インスリンの基盤構築ができ、経口インスリン開発に大きく貢献することが期待されます。本研究成果は令和3年2月22日に「Molecular Pharmaceutics」に掲載されました。
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)創薬基盤推進研究事業「高分子医薬品の経口投与を可能とする小腸透過環状ペプチドキャリアの開発」(研究代表者 大槻純男、課題管理番号:19ak0101080h)、JST-CREST (Grant Number JP171024167)、九州大学AROシーズA (A133、A208)の支援を受けて実施したものです。
【展開】
今回の研究成果から、D体DNPペプチドを用いた経口インスリン開発の基盤構築ができました。今後、投与法の最適化によって、さらにインスリンの小腸吸収を促進させる方法を開発することで、経口インスリン創薬に貢献することが期待されます。
【論文情報】
- 論文名:Oral co-administration of Zn-insulin with D-form small intestine-permeable cyclic peptide enhances its blood glucose-lowering effect in mice
- 著者:Shingo Ito, Yuta Torii, Shoma Chikamatsu, Tomonori Harada, Shunsuke Yamaguchi, Seiryo Ogata, Kayoko Sonoda, Tomohiko Wakayama, Takeshi Masuda, Sumio Ohtsuki*
- 掲載雑誌:Molecular Pharmaceutics
- doi:10.1021/acs.molpharmaceut.0c01010
- URL:https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acs.molpharmaceut.0c01010
【詳細】 プレスリリース本文 (PDF788KB)
お問い合わせ熊本大学大学院生命化学研究部
微生物薬学分野
担当:教授 大槻 純男
電話:096-371-4323
E-mail:sohtsuki※kumamoto-u.ac.jp
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